会話には『情報交換モード』と『親和モード』がある - 「正しい返答」だけでは仕事が止まる理由+α

先日、X(旧Twitter)に投稿されたマンガで、こんな親子のやり取りを見かけました。
「今日給食 何食べたの?」
「紙見な」
…なんだか嫌な子どもだなぁと少し思いながらも、そのシュールさに笑ってしまいました。しかし、時間が経つにつれて色々と考えさせられたこともあります。
子どもの返答はものすごく正しい。そして、ものすごく会話になっていない。
献立を知りたいだけなら、紙(献立表)を見れば済む。でも親は給食の内容だけを知りたかったのではなく、その日の学校生活に少し触れて、子どもと何気ない会話を楽しみたかったのでしょう。
このやり取りを見て、仕事でも同じような場面をよく見てきたことに気づきました。

たとえば仕事で「この件って今どうなっていますか?」と聞かれたとします。
これに「まだです」と答えても、情報としては間違っていません。しかし、相手が知りたいのは、終わったか、終わっていないかだけではありません。
今はどこまで進んでいるのか。いつ終わるのか。自分は何か対応する必要があるのか、そして安心して待っていてよいのか?
親子の会話も仕事の会話も、表面上の質問だけに答えると、その奥にある目的を取りこぼすことがあります。
人は、情報を得るためだけに話しかけるわけではありません。相手との関係を確かめ、安心するためにも会話をします。
今回はこの2つを「情報交換モード」と「親和モード」と呼び、主に仕事の中ではどう応えればよいのかについて考えてみます。

1. 会話と関係を支える2つのモード
質問には、言葉どおりの内容と、その質問をした目的があります。
「情報交換モード」は、事実や指示を伝えるための会話です。何をするのか、誰が担当するのか、期限はいつか。正確さと分かりやすさが求められます。
「親和モード」は、相手との関係や安心を確かめるための会話です。自分の話は届いているか、忘れられていないか、この相手と一緒に進めても大丈夫か。そうした不安を確かめます。
そもそも人間の言語は、霊長類の毛づくろいに代わる『社会的な結びつきの手段』として発達したとする研究もあります。
僕と仲の良い人なら一度はこの引用を聞いているかと思いますが、オードリーの若林正恭さんは、2020年7月18日放送の『オードリーのオールナイトニッポン』にて、世間話は「私たち、集団の一員ですよね?」という確認だと話し、エレベーターを待つ間の社会的な毛づくろいにたとえています(当時の放送内容)。
僕はこの話を、「雑談は味方であることの確認」という言葉に置き換え、普段から大切にしています。
なお、本コラムは会話を厳密に2種類へ分類するものではありません。どんな会話にも多くの場合、情報交換と親和の両方が含まれています。
相手がどちらを求めているのかを考えず、表面上の質問だけに答えると、内容は正しくても会話の目的を外してしまうという注意喚起が本記事の本題です。
2. 「ここに書いてあります」が仕事を止める
クライアントから「現在の進捗はどうなっていますか」と聞かれたとします。
「予定どおりです」と返せば、質問には答えています。しかし相手が知りたいのは、進捗だけではありません。
納期に間に合うのか。忘れられていないか。自分は安心して待っていてよいのか。大げさな言い方ではありますが、そうした不安も質問には含まれています。
「予定どおり進んでいます。現在はデザインの調整まで完了しており、明日の午前中に初稿をお送りします。現時点で、そちらにご対応いただくことはありません」
ここまで伝えれば、現在地、次の予定、自分がするべきことまで分かります。
「メールに書いてあります」「マニュアルに書いてあります」という返答も間違いではありません。しかし、それは「自分はすでに伝えた」という事実を示しているだけです。
「前回のメールでお送りしています。結論としてはA案で進める予定です。確認しやすいよう、資料も再添付します」
こう返せば、相手が過去のメールを探し、内容を推測し、次の行動を判断する負担を減らせます。ここで重要なのは自分が伝えたかどうかではなく、相手を基準に考えているという部分です。
※実際のメールや口頭では、「前回のメールでもご案内しておりますが、認識に相違がないよう、改めて要点を整理してご説明させてください。」のように、柔らかく言えたら更にGoodです!
3. 情報と安心を同時に返す
仕事上の返答は、次の三段階で考えると整理しやすくなります。
- 受け取る
「ご確認ありがとうございます」など、質問を受け取ったことを示します。 - 答える
結論、現在地、理由を簡潔に伝えます。 - 次へつなぐ
次に誰が、何を、いつまでに行うのかを伝えます。
例えば、次のような返答です。
「ご確認ありがとうございます。予定どおり進んでおり、現在はデザインを調整しています。○日の午前中に初稿をお送りいたします。」
必要なのは長文でも、過剰な丁寧さでもありません。
相手の不安を受け取り、必要な情報を答え、次の行動を明確にする。これだけで、単なる返答が進行管理になります。
4. 何度でも聞ける関係をつくる
情報交換モードと親和モードは、スイッチのように明確に切り替わるものではありません。情報交換をしているうちに親和が生まれることもあれば、雑談の中から重要な情報が見つかることもあります。
この二つが混ざり合っているからこそ、会話を「必要な情報を一度伝えれば終わり」と考えると、うまくいかないことがあります。
質問には、答えを知るだけでなく、「自分の理解は合っているか」「以前から状況は変わっていないか」を確かめる役割もあるからです。そこには、情報交換と親和の両方が含まれています。
なにより、人は忘れます。
以前の会議で説明されたことでも忘れます。さっき話したことも、今まさに資料を読んでいても、必要なときに思い出せないことがあります。状況が変われば、同じ説明でも受け取り方は変わります。
「一度伝えたら終わり」
「何度も同じことを聞くな」
こうした考え方は一見すると合理的ですが、それで効率化されるのは答える側の数分間だけです。
質問した側は過去のメールを探し、資料を読み直し、自分の理解が合っているのか不安なまま判断します。質問しにくい空気があれば、認識がずれていても黙って進め、後から大きな手戻りが発生します。
一人の返答回数を減らすために、チーム全体の不安や手戻りを増やしているなら、それは効率化ではなく答える側だけを基準にした効率偏重です。
もちろん、答える側だけに際限のない丁寧さを求めたいわけではありません。同じ質問が繰り返されるなら、マニュアルの情報量や索引しやすさ、情報の置き場所も改善する必要があります。しかし、資料を整えることと、もう一度答えることは対立しません。
何度でも聞く。何度でも答える。そしてそれが許される関係を、部下も上司も協力して作る。これが仕事を進めるにあたり最も重要なことだと僕は考えています。

そして仕事中の何気ない会話も、ただ時間を埋めているわけではありません。
「あなたの話を聞いています」
「同じ目的に向かっています」
「分からなければ、また聞いてください」
そう伝え合う小さな確認であり、「些細なことでも話しかけていいからね!」という心理的安全性の確保です。
人と人が分かり合い、余計なストレスを抱えずに仕事をするには、途方もない時間と膨大な会話が必要です。話して、ずれて、確かめて、また話す。その繰り返しによって、少しずつ同じ方向を向けるようになります。
円滑な仕事とは、合理性を追求して会話を限界まで減らすことではありません。一見非合理でも、分からないことを何度でも聞けて、必要なことを何度でも伝えられる関係をつくることが大切だと、僕は考えています。

ここまで考えてみると、冒頭のマンガで親子の会話がかみ合っていなかった理由も見えてきます。
この場面では、親は子どもとつながろうとする「親和モード」で話しかけています。それに対して子どもは、献立表を見れば分かるという「情報交換モード」で返しています。返答そのものは正しい。でも、会話はかみ合っていません。
(もっとも、これだけ切れ味のある返事ができる年齢なら、親が本当に求めているものは何となく分かっていた気もしますが。)
大人でも、意図せず同じことをしてしまう場合は多々あります。
相手が交流や安心を求めて話しかけているのに、正しい情報だけを返して会話を閉じてしまう。相手が「親和モード」で話しかけていることに気づけず、自分から話を受け取りにいけない。そこから会話を広げられない。
そこに悪意はなくても、相手には「これ以上聞かないでください」という意思表示として伝わってしまいます。
今回は問題点を分かりやすくするために、会話を二つのモードに分類しました。しかし、実際の会話はそこまできれいに分かれるものではありません。
むしろ、すべての会話には多かれ少なかれ「親和モード」が含まれていると考えておくくらいが、円満な関係を作り維持していくには、ちょうどいいと思います。

何度も繰り返しますが、人と人が分かり合い、余計なストレスを抱えずに生きるには、途方もない時間と膨大な会話が必要です。
上司や部下と。仕事仲間と。家族や友人と。ぜひ、無駄にも思える話をたくさん積み重ねてください。
毎日の無駄な会話が、お互いに味方であることを確かめ、必要なときに安心して声をかけられる関係性をつくります。
今回もお読みいただき、ありがとうございました。

「それネットで検索したほうが早いじゃろ」ってことを聞いてくる人、あれも『親和モード』で雑談したいだけなのかものう♪

私、そのパターンだけは許せないのよね…。
たぶん、余談。
『雑談は味方であることの確認』という僕が普段から大切にしている言葉について。このコラムを書くにあたり、「もしオードリー若林が言ってなかったらどうしよう」と念のため調べました。
結果、驚いたことに言ってませんでした。(!?)
正確には「私たち集団の一員ですよね?って確認」と発言していました。6年の間に、どうやら僕の頭の中で坂牧っぽい言い回しに変化してたみたいです。
で、調べ直して気付いたんですが、本コラムが伝えたい内容を、オードリーの2人はもっと的確に例えていました。最後にご紹介させてください。
春日:仲間です。大丈夫ですよ。敵じゃないですよ。っていうのを示していかないと、(集団から)弾かれるよ。
若林:『仏頂面でエレベーター待ってる』って、害を及ぼしてないと思ってたけど、腹割ってねぇぞってことになるんだよね、『仏頂面でエレベーター待つ』は。
春日:うん。「あれ?この人、敵なのかもしれない」って、相手に思わせちゃうんだよね。
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